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Wednesday, April 6, 2011

世界の中心で愛を叫ぶ 第12話

2004年9月17日放映
特別編「17年目の卒業」

――谷田部のナレーション
――谷田部のセリフ
――大人サクのセリフ
回想シーン


谷田部(松下由樹)のナレーションで物語が始まる。

1987年、一人の少年と一人の少女がいました。
少年の名は、松本朔太郎。
少女の名は、廣瀬亜紀。
ごくありふれた二人の恋。
けれどそこに待ち受けていたのは、ある悲劇的な結末。
そして少年はいまだ彼女の死から、卒業していない――

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

2004年。
高校のグラウンドで、サクが走りながらアキの散骨を終える。
短距離走のゴール地点付近で、息を切らすサク(緒形直人)。
後ろから谷田部が声をかける。

変なおじさんが走ってるって言われたんだけど。
何してるの?

サクが天を指差す。

アキを送ってたんです。
そっかぁ…
はい。

廣瀬亜紀の骨と過ごした17年。
その死を痛み続けた17年。
ひとつの恋を卒業するのに、17年という月日は
長かったのだろうか、短かったのだろうか。

1987年、今日のように二人はここにいた。
これは、松本朔太郎と廣瀬亜紀という、私が送り出せなかった二人の生徒の物語――。
1話:教師の葬儀。
学年を代表して弔辞を読み始める亜紀。

きっかけは、突然降り出した雨。
突然強い雨が降り始める。
それにも負けず弔辞を読む亜紀に、そっと傘を差しかけるサク。

廣瀬はちょっと意地っ張りな優等生。
松本は、忘れ物ばかりするのん気者。
正反対の二人が、お互いを意識し始めたのは
アジサイの花が咲く、初夏の頃でした。
「松本くん、サクって呼んでもいい?」
「好きよ、サクちゃん。大好きだよ」

それは一見、どこにでもあるような普通の恋。
たぶん、初恋…。
2話:学級委員に強引にキスされる亜紀。
それを目撃したサクは怒り、学級委員に飛びかかる。

時おり、どうでもいいようなことが原因でケンカをしたり。
飾らない二人の姿は私にとって、微笑ましくもあり、ちょっと羨ましく思えるものでした。
松本のお祖父さんが亡くなったのは、そんな時でした。
3話:自転車から転げ落ちたサクを、抱きしめる亜紀。
「私太るよ。お祖父ちゃんと同じぐらいになって、後ろに乗るよ」

その死を受け入れられない松本を支え、励ましたのは廣瀬。
一方松本も、不器用ながら必死に廣瀬を支えようとしていました。
4話:目前に迫った陸上の県予選。
練習に明け暮れる亜紀を応援するサク。

けれど廣瀬の身体に異変が起き始めたのも、この頃。
そして廣瀬にとって、高校生活最後のレース。
レース開始に間に合わなかった亜紀。
「なんでダメなんですか? お願いします。これが最後になるかもしれないんです。お願いします…」

二人だけの競技会。二人だけの公式記録。
走り続ける廣瀬と、それを見守る松本。
二人だけの最後のレース。亜紀の自己ベスト、12秒91を記録。

二人はずっとこんな風に、手を取り合い、歩いていくものだと思っていました。
でも――
二人で迎える初めての夏休み。
無人島へ、二人きりの旅行へ行ったようでした。
ところが皮肉なことに、この旅行が若すぎる二人の悲劇の始まりとなったのです。
6話:夢島で倒れた亜紀。意識を失い救急車で運ばれる。
連れ出したサクは真から殴られる。

私にその知らせが届いたのは、新学期が始まる1週間前のこと。
廣瀬の病名は、白血病でした。
新学期が始まり、「どこの病院ですか?」と谷田部に聞くサク。
「ご家族の希望でそれはお知らせできませんが、廣瀬本人が、すぐに戻ってくるから大丈夫ですって言ってました」と谷田部。

とっさの嘘でした。
サクと亜紀の両親の会話。
「亜紀ちゃんに会わせてください。俺できること何でもしますから」
「できることなんて簡単に言わないで!」
「白血病なんだ…君に何ができるんだ?」

このまま続くと思っていた幸せは、突然音を立てて崩れ、松本は自分を責め始めました。
気丈な廣瀬もまた、不安を隠せないようになっていました。
そんな二人に私が言えることは…
「学校ぐらい出なさいよ」
「ここでグチグチ泣くことぐらいかもね、あなたにできることは」
「廣瀬の前でもそうしてるつもり?」

1987年当時、急性白血病は不治の病と考えられており、
本当のところ、私自身も何をすべきか明確な答えを持てないでいました。
けれどそんな私を置き去りにするように、仲間の力を借りて、松本は廣瀬を支えていったのです。
サクが企画した「どすこいロミオとジュリエット」を、亜紀の病室で演じる大木・ボウズ・智世。
亜紀の父の許可が出て、1ヶ月ぶりに再会した二人。
「サクちゃんって呼んで」「サクちゃん」
「もう一回…」「サク…サクちゃん…サクちゃん…」

二人は生きているという事実を、そして再会の喜びを、
お互いのぬくもりを感じ合うことで、確かめ合っていったようです。
でも――
7話:「私、白血病なんだって」
サクを騙して、自分の病名を知った亜紀。

そしてそんな時――
1日だけ外泊許可が出て、久しぶりに登校する亜紀。

廣瀬が、学校に戻ってきたのです。
「午後からサボらない? 頼むから、俺の前で無理しないでよ」

たった1日の外泊許可。
午後の授業をサボった二人がどのように過ごしたのか、私は知りません。
でもその裏側で、廣瀬は迫り来る死の恐怖に、押し潰されそうになっていたのです。
同じ白血病の真島の死を知り、悲観的になった亜紀は夜の海へと入水。
「どうせ死ぬんだったら、なんで辛い治療を受けなきゃいけないの?」
「俺は廣瀬亜紀を信じる。だから絶対裏切るなよ!」

白血病という名の、絶望。
それを救ったのは松本でした。
二人はまだ希望を捨てようとはしませんでした。
8話:抗がん剤の副作用で、亜紀の髪が抜け始める。

しかし病魔は確実に廣瀬の身体を蝕み、廣瀬はオーストラリアへの修学旅行を諦めました。
自分の無力さを痛感した松本は、自分に苛立ち、動揺を隠しきれず――
「今日死ぬかもしれないんだよ! 白血病なんだよ」
大木たちにやるせない怒りをぶつけるサク。

廣瀬の回復を、必死で信じようとしていた松本。
そして出会ったウルルの空。
1枚だけ撮った写真は、きっと廣瀬に見せるつもりだったのでしょう。
けれど――
廣瀬もまた、松本を想うがゆえに別れを決意しました。
「もう来ないでください。さようなら、サクちゃん」
別れを告げる亜紀のテープ。

「先生、俺、亜紀に何かできることって…」
「わからないな。廣瀬が松本に求めてるものなんて、あなたたちにしか」

本心でした。
「じゃあ、結婚して。ここに名前書いて。俺を幸せにして…」
サクは亜紀にプロポーズ。そしてビニール越しにキスを…。

形だけの結婚。
それでも廣瀬に、不器用な愛情を表現した松本。
廣瀬はその優しさに応えようと、そして松本と生きた証を残そうとしたのです。
9話:写真館で結婚写真を撮影。ウェディング姿の亜紀。幸せそうな二人…。

本当にきれいな二人でした。
病室から見えなかった空に、微笑んだ廣瀬。
久しぶりに見せた笑顔。
この日をきっかけに、松本は空の写真を撮り続けたのでした。
でも、燃えるような夕焼けの日、廣瀬亜紀の容態が急変しました。
「お母さん、手握って。このまま目、覚めなくなる気がする」

私が二人のためにできることは、テープを渡すくらいしか、ありませんでした。
「やっとアボリジニの本、読み終えました」
「アボリジニの世界では、この世にあるすべてのものに、理由が存在するの」
「私の病気にも、理由があるはずよ」

廣瀬はもう、自分が死ぬことから目を背けられなくなっていたようです。
「サクちゃん、生きてるってどういうことかな。死ぬってどういうことかな…。
たまに、生きてるのか死んでるのか、わからなくなる」

髪が抜け落ち、スキンヘッドになった亜紀。
「キスでもしませんか?」 ビニール越しのキス…

「世界で一番青い空が見たい」 亜紀の最後の願い。

10話:「私、何のために死ぬんでしょうか?」 谷田部に聞く亜紀。
「それは残された人、一人一人が決めることなんじゃないかな。その生き様を見て」
「廣瀬亜紀は、どんな風に生きてきた?」

亜紀を連れ出すべきか迷うサクは、谷田部に相談。
「亜紀を大切に思ってる人は、いっぱいいるわけで」
「迷うくらいなら、やめといた方がいいと思うよ」とサクに諭す谷田部。

本音を言えば、私は二人でウルルに行けばいいと思っていました。
だけど、もう一度松本に考えて欲しかった。
もしかしたらこの事が、松本に大きな傷跡を残すかもしれなかったから。
空港への電車内。
「待ってたの。私はずっとサクのいない世界で、サクが生まれるのを待ってたのよ」

空港で亜紀が倒れ、どうすることもできず抱きかかえるサク。
「サクちゃん、やっぱりあの世なんてない。天国なんてない。ここ、天国だもん…」
「助けてください…助けてください…」

最終話:「ウルルに撒いて…サクちゃん…」
アキ夭折。

廣瀬の最後は、笑顔でした。
残されたテープを大木らに手渡す母・綾子。
谷田部にもテープが残されていた。
「いつでも誰に対しても変わらない先生の強さと優しさが、こうでありたいと願う私の理想でした」

私は強くも優しくもなかった。
本当に強かったのは、廣瀬亜紀でした。
廣瀬亜紀に出会えて私は幸せでした。
そして、残された松本は…。
亜紀の両親とウルルに行くが、遺骨を撒くことができず、サク絶叫。
「温度のない、重さもない、吹けば飛ぶような白い粉。それが亜紀だった」
「僕の好きな人だった――」

谷田部との会話。
「ちゃんと送ってあげられた? 廣瀬…」
「これが亜紀なんだって思うとやっぱりできなくて。でも、ずっと持ってようかなって」
「俺、医者になろうかなって」

それからの松本は、二度と廣瀬のことを口にしませんでした。
私に本心を語ることもなくなりました。
亜紀のいない世界。
医師を目指し、ひたすら勉強に打ち込むサク…。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1989年3月。
あれから1年以上が経ち、高校三年生になったサクや大木らの卒業式が行われていた。
谷田部が名前を呼び、卒業証書が配られていく。

大木龍之介、中川顕良…

そして「松本…」と言いかけたところで、サクが欠席していることに気づく。
サクを飛ばして、次の生徒の名前を呼ぶ谷田部。

そこに、松本の姿はありませんでした。
一人の教師として、私は彼をここに連れてくることができませんでした。

その頃サクは、亜紀のいない卒業式に耐えられないのか出席せず、駅から旅立とうとしていた。

谷田部のクラスの卒業証書がすべて配られ終わった。
次のクラスの配布に移る前に、谷田部が願いを申し出る。

すいません、最後にもう一人、名前を呼ばせてください。

「廣瀬亜紀」

亜紀の遺影を持った智世が、遺影を抱えたまま代理として壇上へ――

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

2004年。
グラウンドで亜紀の骨を撒き終えた後だろうか。
サクと谷田部が夜の学校を散策している。
取り壊される予定の校舎を前にして、サクが話し出す。

ここも変わるんですね。
校舎は校舎だよ。みんなが出て行くとこ。
何百人も見送ってるとね、時々、廣瀬ってほんとに死んだのかなって思うんだ。
ただ、卒業しただけじゃないかって…。

そう話しながら校門から出たところで、谷田部が突然大きな声を出す。

松本朔太郎!
卒業証書。

と言って、筒に入った卒業証書を手渡す谷田部。

これ、ずっと…。
はぁー、スッキリした。

と言い、満足そうな谷田部。
17年間待っていてくれた谷田部に、サクは感謝し頭を下げる。

帰り道。
「じゃあここで」と言い残し立ち去る谷田部に、サクが後ろから肩を叩く。
振り返った谷田部の頬に、サクの指が当たる。

なぁに?
家まで送りますよ。
いいよ、さっさと帰りなさい。
…はい。
それじゃ、先生。
じゃあね。

自転車に乗って走り去るサクを、暖かく見守る谷田部。

きっとこれからも、廣瀬は松本の中で生き続けるでしょう。
今度は、暖かな思い出として。
その人生が、終わる時まで――

谷田部が夜空を見上げると、星が光っていた。
それは亜紀のようでもあった。

世界の中心で愛を叫ぶ 第11話

2004年9月10日放映
最終話「かたちあるもの」

2004年。
一樹を助けようとしてバイクにひかれ、緊急手術を受けた明希(桜井幸子)。
なんとか一命を取り留め、ベッドに横たわる明希に対し、サク(緒形直人)が声をかける。

ほんとにもう頼むよ、明希…

サクは「小林」ではなくはじめて「明希」と呼ぶ。
そして今ではアキ(亜紀)よりも、明希への想いが勝っていることを実感していた。

生きている者への想いは、死者への想いに勝っていくという、
その残酷な事実に、返せる言葉が僕にはもうない。
アキの死と過ごした17年が、終わっていく気がした。
きっと流れる血は、いつしか君の記憶さえ彼方へと運ぶのだろう。
僕はあと何度、君の名を呼ぶんだろう。
あと何度、あんな朝を迎えることができるのだろう。
与えられた未来と失われる過去の狭間で、君の名を呼ぶ。
アキ――

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
病院から抜け出しウルルの空を目指した二人だが、アキ(綾瀬はるか)は空港に着いたところで倒れてしまう。
だがサク(山田孝之)は引き返そうともせず、「約束を叶える」と取り憑かれたように言いながら、もう意識のないアキを背負って搭乗ゲートへ。
しかしすぐに係員に止められ、重体のアキは病院へと運ばれる。

その時アキのバッグと共に、包装紙に包まれた本のようなものが置き去りにされていた。

入院先へと連れ戻されたアキ。
病室前の廊下にいたサクは放心状態だった。
潤一郎が病院に駆けつけていた。

アキは…?
(潤一郎) まだ大丈夫だ。
そっか…。

と言ったところで、サクは極度の疲労から倒れてしまう…。


サクが倒れている間に、アキの最期の時は近づいていた。
母・綾子(手塚理美)は愛しそうにアキの手を握り、真は悔しそうにアキを見つめる。
もうなすすべはなかった。

アキは最後の声を振り絞る。

そ…ら…
ウルルに…撒いて…
わたし…
サ…ク…ちゃん……

長い夜が過ぎ、そして明けようとしていた。


サクは病院のベッドの上で目を覚ました。
看病していた母・富子に声をかける。

アキは?
(富子) 今朝ね…

何があったかを直感したサクは、点滴針を強引に引き抜いて起き上がる。
そして一直線にアキの病室へ。
だがすでにベッドは空だった。

やるせなさに襲われたサクは、思わず近くにあったマットレスや椅子を投げ飛ばす。
サクを追いかけてきた富子が慰める。

サク! やめなって。
安らかな最期だったって。
笑ってたって。
幸せそうだったって…
嘘だろ…
最後に、あんたの名前呼んだって…
嘘だ…こんなの、全部嘘だって言えよ!

その事実を認められないサクは、泣き崩れるしかなかった…。


後日。
退院したサクは家へと帰るが、心を閉ざし、両親とも言葉を交わさない。
一人で部屋に閉じこもるサク。

目を閉じると、アキがいた。
このまま、目が覚めなければいいと思った。


翌朝。
アキの葬儀がしめやかに執り行われていた。
担任の谷田部(松下由樹)をはじめとして、大木・智世・ボウズらも出席。
皆、目には涙を浮かべていた。
谷田部はサクを探すが見当たらない。

父・潤一郎に連れられ、気乗りしないまま葬儀場を訪れたサク。
だが入り口を前にしてたところで、やはりアキの死を受け入れることができず、走り去ってしまう。

一方、大木・智世・ボウズは、棺に収められたアキに献花し、最後のお別れをする。

ボウズはプレゼントするつもりで買った帽子を、
大木はブルーハーツのカセットテープを、
智世は陸上用のシューズを、
谷田部は陸上部で使っていたホイッスルを、それぞれ棺に添える。

「頑張ったね…廣瀬」と、谷田部はアキを慰めるように声をかける。


一方サクは雨が降りしきる中、防波堤へと向けて走っていた。
ただ、無我夢中で走ることしかできなかった。
途中で転んでしまい、すりむいた頬から赤い血が流れる。
心は死んでいても、自分は生きていることを実感する。
「なんで俺、生きてんだよ…」と嘆き、道路にあおむけになり、雨に打たれ続けるサク。

葬儀場。
最後に両親が献花をする。
綾子は「アキ!アキ…!」と嗚咽しながら、棺の中のアキに別れを告げる。

火葬場。
アキが灰になっていくのを寂しそうに見つめる大木たち。
そんな彼らに綾子が近づき、アキの遺品を手渡す。
ウルル出発前に録音されたカセットテープだった。

それぞれが一人になり、アキの最後のテープを聞く…


智世はかつて一緒に練習した、高校のグラウンドで…

智世へ。
智世とはじめてしゃべった日、今でも覚えてるよ。
陸上部の、練習の初日。
”タオル貸して”
屈託のない智世の明るさは、私の憧れだったんだよ。
智世の笑った顔、好き。
大きな声も好き。
だから…いつまでも、変わらないでね。


ボウズは悲しみを紛らわすように、たこ焼きを食べながら…

ボウズ。
一回、呼んでみたかったんだ。
怒るかもしれないけど、お坊さん、向いてると思うよ。
ボウズの明るいお経、いいなぁ。
聞いてみたいよ。
わらわは、バッチリ聞いておるぞよ。


大木は防波堤で、寂しそうに海を見つめながら…

大木くん、夢島、ありがとう。
私と大木くんは、ちょっと似てるかなって思ってます。
カッコつけなところとか。
実は、小心者のところとか。
もっと色んなこと話したかった。
もっと友達になれたよね、おまえさん。
サクちゃんを、よろしく。


谷田部は教室で、アキの席に座りながら…

先生、最後まで、ありがとうございました。
いつでも誰に対しても変わらない、先生の強さと優しさが、
こうでありたいと願う、私の理想でした。
恩師と呼べる人に出会えた私は、幸せでした。

それぞれが、アキの最後のメッセージに涙を流す…。

だが最後まで一緒にいるつもりだったアキは、サクへのテープは残していなかった。


真と綾子がアキの部屋で、遺品の整理をしていた。
するとアキのバッグと共に、包装紙に包まれた物体を見つける。
アキが病院に運ばれた時に、空港職員が見つけて確保されていたものだった。

真が包装紙を取ると、「ソラノウタ」という手作りの絵本だった。
サクの誕生日プレゼントのために、アキが病室で作ったのだ。
表紙はウルルの空だった。

真と綾子はアキの最後の願いを叶えるために、ウルルでの散骨を計画する。


一方、サクは今までのアキのテープの山と、夢島までの写真を前に、放心の日々だった。

心配したボウズがサクを呼び出し、大木・智世と共に防波堤に集まる。

(智世) アキ、サクには元気でいて欲しいって、思ってると思うんだ。
(大木) 気持ちわかるけどさ、焼香だけでもしに行こうよ。
アキちゃん、おまえさんに…
誰が言ったの。
誰かアキに会ったの。
(ボウズ) 会えるわけないだろ…
会えるわけないだろ!
おまえが一番よく知ってんだろ!
最後まで一緒にいた、おまえが! おまえが…!
寝てると会えるんだ、アキに。
夢見てる時は、これは夢だって思わないじゃん。
そのうち、目覚めなくなったりしてさ。

サクのすねた態度に、大木はたまらず殴りつける。
殴られ、倒れこむサク。

痛ぇだろ?
腹減るだろ? 寝るだろ? 起きるだろ? クソすんだろ? なぁ…。
廣瀬が一番欲しかったものは、おまえさんが持ってんだよ!
おい! おい…!

そう呼びかけるが、サクは心を閉ざしたままだった。


その夜。
アキの両親は散骨をするためにウルル行きを決める。
サクにも一緒に来て欲しいと、航空券がサクの家に届けられる。

(富子) アキちゃんの遺言でね、ウルルに、骨を撒いて欲しいって。
おまえも一緒にって、言ってくださってるんだよ。
もういい…
(潤一郎) 何を今さら傷ついたフリしてるんだ。
おまえが止め刺したようなもんじゃねぇか。
わかってたんだろ。あぁ、もう死ぬわって。
わかってて連れ出したんだろ。
やりたい放題やって、自分が一番かわいそうか?
悲劇のヒーローは、大威張りだな。
僕の気持ちなんか…
ほら、アキさんのためじゃなくて、自分のために泣いてるだけじゃないか。

サクはたまらず潤一郎に飛びかかる。取っ組み合いになる二人。

どうして送ってやることひとつできない?
どうして死んだ人間の頼みひとつ、聞いてやれないんだ!
情けねえなぁ…


その夜。
大木や潤一郎に叱咤され、サクの中で何かが変わろうとしていた。
サクは「世界で一番青い空が見たい」という、アキの最後の願いが録音されたテープを聞く。そして、ウルル行きを決意…。


オーストラリア。ウルル。
赤い大地に降り立ったサク・真・綾子の三人。
真はアボリジニの特殊な埋葬について語り始める。

アボリジニは、遺体を二回埋葬するらしい。
最初は土に埋葬して、その後で骨だけを取り出して。
その骨のすべてを木の皮にくるむ。
肉も骨もすべて、大地に戻すためらしい。
大地に戻った人間は、新たな命を育む。
アボリジニにとって、生と死は一体なんだ。

そう語り合いながら、世界の中心に辿り着いた三人。

これはアキの願いなんだ。一緒にやろう。サク君も。

木箱に入った遺骨を取り出し、三人で分ける。
手のひらには粉になった遺骨があった。
そして真と綾子の手から、風に乗って遺骨が放たれる。
赤い大地へと旅立ったアキ…。

花を…咲かせるかしら。
土に還って…
あの子は…命を捨てて……

感極まって嗚咽する綾子。
真がそれを支える。

まだ撒くことができないサクに配慮し、「下で待ってる」と言い残して立ち去る二人。


なぜだか、世界が色を失っていた。
あんなに青かった空も、赤かった土も。
そんな世界の中で、きっと骨だけは白く、変わらない真実だった。

アキとの幸せな日々を、サクは改めて回想する。
そして今、手の中にはそのアキが…。

温度のない、重さもない、吹けば飛ぶような白い粉。
それがアキだった…

サクの哀しみは頂点に達する。
「アキーーッ!」と、ウルルの空に絶叫…。

僕の、好きな人だった――


帰国後。
結局、サクは撒くことができなかった。
アキの骨は小瓶に入れ、持ち歩くことにした。
だが今までのテープとウォークマン、そして夢島の写真は、まとめて押入れの中にしまい込んだ。


後日。
谷田部とサクが、高校のグラウンドで会話している。

ちゃんと送ってあげられた? 廣瀬…

サクは小瓶に入った骨を見せる。

これがアキなんだって思うと、やっぱりできなくて。
でも、ずっと持ってようかなって。
忘れないように? 廣瀬といたことを。
(首を振って否定するサク)
アキが、死んだことを…。

先生、俺、医者になろうかなって。
え?
やっぱり、無理ですか?
そうじゃなくて、人を救う仕事でもあるけど、看取る場所でもあるんだよ。
結局、アキに何もできなかった気がするんです。
まぁ、まずは授業出なさいよ。
はい。


普段と変わらない、サクの日常がまた始まった。
ただ、アキだけがいなかった。

それからの僕は、何事もなく過ごしながら、勉強に没頭した。
もちろん、入試のためだったけど、難しいことを考えてるのはありがたかった。
その間、他のことを考えなくて済むから。
だけど…
朝、起きると泣いている。
悲しいからじゃない。
夢から現実に戻ってくる時、またぎ越さなくてはならない亀裂があり、
僕は涙を流さずに、そこを越えることができない。

時にはアキが、すぐ近くにいるような錯覚を覚えた。
でもそれは幻想に過ぎなかった。

何度も確かめて、それでもなお、ありもしない現実に期待する。
そんなことは、あるはずもないのに。


2004年。

それが、僕の17年だった。

バイク事故に遭った明希に付き添っていたサクだが、一時病院を抜け出し、道路に落としたアキの骨を確認しに行く。しかし雨で完全に流されてしまっていた。

病室に戻ったサクは雨に濡れていた。

どうしたの?
ちょっと降られて。
ちょっと?
落として、割れちゃって。ビン。
亜紀さんを?
でもさ、これで良かったのかなって。
撒いて欲しいって言われてたのに、俺が勝手に閉じ込めてきたようなものだし。

知ってると思うけど、一樹の父親って、最低でさ。
子どもができたって言っても、それは明希の人生だし、とか言うし。
女の問題も多い人で、ほんと、誠意のかけらもなくって。
なんでそんな人、好きになっちゃったんだろうって。

でもね、今になって思ってみると、すごく色んなものもらってるんだ。
彼が居なかったら、一樹はいなかったし。
一樹がいなければ、松本君とのこともなかったし。
一人で子どもを育てる自信とか、人の助けを素直にありがたいって思う気持ちとか。
変な言い方だけど、彼がいないことが、私を育ててくれたっていうか。

亜紀さんの骨が、松本君に頑張れって、言ってくれたんじゃないの?
松本君は、それに応え続けてきたんじゃないの?
すごいことだと思う。
そんな恋はきっと、二度とないよ。
かけがえのない17年を、こんな形で、終わりにしてもいいの?


明希にそう諭されたサクは、17年ぶりに廣瀬家を訪れる。
外観は17年前と何も変わらず、2階には亜紀の部屋も見えた。

門を前に躊躇していると、散歩から帰宅した真が後ろから声をかける。

まだ生きてたのか。
あ、あの、すみません。
あの…亜紀に、亜紀さんに謝らせてください。
昔も言ったと思うが、人に会ったら挨拶しなさい。

亜紀の部屋に通されたサク。
仏壇にはサクとの結婚写真などが今でも飾られていた。
17年前にできなかった焼香をするサク。


その後、防波堤で海を見ながら会話するサクと真。
真は包装紙に包まれた絵本をサクに差し出す。

持って行こうかとも思ったんだが、
顔ひとつ見せない人間に、わざわざお受け取り頂く義理もないかなと思ってね。
まだ一人らしいな。
はい。
お父さんお母さんが、心配してらしたぞ。
そろそろ、とは思ってます。
そうか…
はい。
もう忘れたか? 亜紀のことは。
どうなんでしょう。
失礼だぞ、相手の女性に。
きっと、これからだんだん忘れていくんでしょうね。
すいません。

寂しいんだろう。
俺もそうだ。
見たくないことまで夢に見ていたのに、見なくなってね。
そのうち、思い出すのにも時間がかかるようになって。
あの時はどうだったかって、女房に確かめるようになって。
でも、忘れたいのでも、忘れないのでもなくてね。
人間は、忘れていくんだよ。
生きていくために。
まぁそんなことは、お医者様に説教をしてもな。

よく頑張ったなぁ、サク。
生死を扱う仕事は、辛かっただろう?
もう、十分だ…ありがとう。

そう言って真が頭を下げると、サクは泣いてしまう。

骨を…少しだけ、もらってもいいですか。
俺はアキを、一度もちゃんと送ってないんです。


残っていた遺骨を分けてもらったサク。
遺骨をそばに置き、亜紀が残した絵本をはじめて手に取る。
ソラノウタ

生きていくあなたへ

もしもおまえが
枯れ葉ってなんの役に立つの?ってきいたなら

わたしは答えるだろう
病んだ土を肥やすんだと

おまえはきく
冬はなぜ必要なの?

するとわたしは答えるだろう
新しい葉を生み出すためさ

おまえはきく
葉っぱはなんであんなに緑なの?

そこでわたしは答える
なぜって、やつらは命の力にあふれているからだ

おまえはまたきく
夏が終わらなきゃいけないわけは?

わたしは答える
葉っぱどもが、みな死んでいけるようにさ

おまえは最後にきく
隣のあの子はどこに行ったの?

するとわたしは答えるだろう
もう見えないよ

なぜなら、おまえの中にいるからさ
おまえの脚は、あの子の脚だ

がんばれ

散骨場所を求め、高校のグラウンドに辿り着いたサク。
17年前、亜紀が陸上の練習で日々走っていた場所だ。

走りたいだろう、アキ。

100メートル走のスタートラインに立ったサクは、
ケースから骨を取り出し、手のひらに出す。

風が吹き、骨がグラウンドに放たれた。
それと同時に、サクは走り出す。17年前の亜紀のように。
走りながら、骨が撒かれていく。

追いつけない速度で去っていくアキを、
僕はもう、捕まえることができない。
生きている限り、君と僕とは遠くなるばかりだろう。
だけど、僕は走ることをやめない。
走り続ける僕たちの足跡は、
君がいた、証だから…

絵本の最後のページは「がんばれ」という言葉で締められていた。
その隣には、笛吹いてサクを励まそうとする、アキのイラストが描かれていた。

走り終わったその時に、
君に笑って会えるだろう――。

世界の中心で愛を叫ぶ 第10話

2004年9月3日放映
第10話「たすけてください…」

2004年。
バイクにひかれそうになった一樹を助けるため、道路に飛び出したサク(緒形直人)と明希(桜井幸子)。
その瞬間、サクはアキの遺骨が入った小瓶を落とし、割ってしまう。
サクがそれに気をとられている間、一樹を助けようとした明希が、代わりにバイクにひかれてしまう。

すぐに病院へと運ばれ、緊急手術を受ける明希。
サクと一樹は手術室の前で祈るしかなかった。

助けてください…
この世界でたった一人、僕を追いかけてくれる人を
僕のために笑ってくれる人を
僕のために泣いてくれる人を
僕を…抱きしめてくれる人を
助けてください…
僕たちを、助けてください。
僕は祈っていた、あの日と同じように。
祈ることしかできなかった…。

サクは17年前にも同じ言葉を発し、祈ったことがあった…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
「世界で一番青い空が見たい」という、アキの最後の願いが録音されたテープを、繰り返し聞くサク(山田孝之)。
サクはオーストラリア行きを本気で考えるようになる。

アキ(綾瀬はるか)は死を覚悟の上で、それでも最後にウルルに行きたいと言う。

アキは…生きること、諦めたの?
死ぬってことが、否定できなくなった時、
死に方に夢を持つことは、諦めることなの?
最後まで生きようと思うことなの?
わかんないな、俺…
私も。
いっか、そんなこと。
ウルルに新婚旅行か…

ウルル行きを決めた二人。
そしてそれは限りなく死を意味する…。サクは一人でむせび泣く。

サクが旅行代理店に問い合わせると、オーストラリアへの旅費は40万円かかると言われてしまう。


旅立ちの前にみんなに会いたいと望んだアキの元に、大木・智世・ボウズが見舞いに訪れる。
アキがニット帽を脱ぎ、スキンヘッドになった姿を見せると、智世は泣いてしまう。
それでも友人との幸せなひと時を過ごす…。

高額の旅費を何とかしようと思ったサク。
タンスの中の通帳へと手を伸ばすが、母に見つかりとがめられる。
どうしても使い道は言い出せなかった。


ある日、担任の谷田部(松下由樹)がアキのお見舞いに訪れる。

先生、わがまま言っても…
何?
授業して欲しいんです。
もう、教室行けないかもしれないから…。
何言ってんの。

そう言いながらも、谷田部は古文の教科書を開いて読み始める…。


一方、サクはアキとのオーストラリア行きに戸惑いを感じ始める。
大木や智世らはアキを元気づけるために、帽子のプレゼントを計画。
またアキの母・綾子からは親族にも配りたいと、結婚写真の焼き増しを頼まれる。
サク以外にも、アキを大切に思う人はたくさんいる…。

アキ、ホントにこれでいいのかな。
会いたい人、いっぱいいるんじゃないの。
アキに会いたい人も、いっぱいいてさ。
みんな1日でも長く、アキの顔見ていたくて…
だけど…もう時間ないじゃない…。

どうしていいのかわからないサクは、谷田部に相談。

アキはウルルに行きたいって言うけど、ほんとにそれが一番いいのか。
なんかもうわかんなくなって…。
アキを大切に思ってる人、いっぱいいるわけで。
迷うくらいなら、やめといた方がいいと思うよ。
もしものことがあったら、あんたのせいだって言う人もいるかもしれない。
あんた自身も、そう思ってしまうと思う。違うかな。


谷田部は定期的にアキを見舞いに訪れていた。

授業のことなんだけどさ、どうせなら廣瀬が興味持てることやろうと思って。
今一番知りたいことって、何?
私、何のために死ぬんでしょうか…。
それは…残された人、一人一人が決めることなんじゃないかな。
その生き様を見て。
廣瀬亜紀は、どんな風に生きてきた?

アキは自分らしい生き方について考え始める。


一方、サクはウルル行きをどうすべきなのか、わからないままだった。
仏壇の前で祖父に問いかけるが、返事はない。

するとサクの父・潤一郎がやってきて、一通の通帳をサクに手渡す。
祖父がサクの名義で貯金してきた通帳で、160万円ほど貯まっていた。
お祖父ちゃんと相談して使いなさい、と潤一郎。


旅費の都合がついたサクは旅行代理店へ。オーストラリア行きのチケットを2人分購入する。 10月24日、サクの誕生日が搭乗日だった。

覚悟の変わらないアキは、皆と会えなくなっても後悔しないと言う。

この日、アキの両親は調理した料理を病室に持ち込み、ベッドのアキを囲んで食事。
最後の家族団らんのひと時を過ごす…。

私って、どんな子だった?
頑固で負けず嫌い。
ま、カッコつけの泣き虫だな。
産声がすごく大きくて、男の子ですかって。
ハイハイも歩き出すのも、すごく早くて。


両親がいない間に、サクはアキの家に忍び込み、旅行に必要なアキの衣類などを用意する。

ふと、奇妙な感覚に襲われた。
何もかもがアキを物語る部屋の中で、アキだけがいなかった。
もしかして、これは僕の未来なのだろうか。
何も変わらない、アキだけがそこからすっぽりと抜け落ちた世界。
アキの死と共にやってくる世界。
誰かの痛みも、受けるかもしれない非難も。
一人で死を看取る恐怖も。
すべてを越えて…ただもう、二人で空が見たいと思った。

サクもようやく覚悟が決まる。


旅立ちの日。
サクは置手紙を残して家を抜け出そうとするが、母・富子に見つかる。
「変なことすんじゃないよ」と、お守りを2つ手渡す富子…。

サクが病室に行くと、すでにアキは準備ができていた。
病院を抜け出し、表でタクシーを捕まえる。

立っていることもままならないアキが後部座席に乗り込んだところで、
アキはサクをなぜか突き放し、運転手に発進してと告げる。
アキを乗せたタクシーは、サクを追いて行ってしまう。


一方、娘が抜け出したことを知ったアキの両親は愕然。
アキの主治医は自殺行為だと嘆く。
そしてベッドの上にはいくつかのテープが残されていた。

真は両親宛てのテープを再生する…。

お父さん、お母さん、ごめんね。
これが自殺なのか何なのか、わかりません。
だけど、頑固で、負けず嫌いで、カッコつけで、泣き虫の、私の最後のわがまま。
白血病で死ぬことが私の運命だったとしても、
そんなものに、私の17年をつぶされたくない。
きっと生きたいように生きるために、生まれてきたから…。
最後までそうしたい。
青い空を見に行く。
わがままで、ごめんなさい。


アキは一人で駅に辿り着き、階段を這いつくばりながら登っていた。

追いかけてきたサクが、息を切らしながらアキを見つける。

なんかあったらどうすんだよ。
だって…これ以上迷惑かけられないよ。
私、死んだらどうするの?
かついで戻ってくるよ。
重いかも…
いいよ。
アキは、そのまんまでいいんだよ。

二人は電車で空港へ。

思い出していた。
アキの誕生日、7月2日。
俺が生まれてきたのは、アキのいる世界だったんだって。
待ってたの。
私はずっとサクのいない世界で、サクが生まれるのを、私は待ってたのよ。
アキは…たった3ヶ月とちょっとじゃない、一人だったの。
それって、ズルくない?
俺、これからずっとだよ…。
足速いんだもん、私…。
どこ行くんだよ、そんなに走って。
あの世なんてないって言ってたじゃない。
天国…。
逃げんなよ…。


空港に着いた時は雨が降っていた。

サクはアキをロビーの椅子に座らせ、搭乗手続きへと向かう。
手続きが終わって戻る時、アキが椅子から床へと崩れ落ちてしまう。
アキは意識がもうろうとしていた。

アキ、大丈夫?
戻ろう
いいから…
でも…
行きたいの

アキはサクに支えられながら搭乗ゲートへと向かう。
だがもう歩くこともできず、また倒れこんでしまう。

アキ、アキ…
サクちゃん…
やっぱり、あの世なんてない
天国なんて、ない…
もう、しゃべるな…
ここ、天国だもん…
好きよ、サクちゃん……

アキはついに意識を失ってしまう…。

――僕が生きてきた中で、アキがいなかった日はなかった

アキを抱きかかえたサクは、絶望の中でつぶやく。

助けて…ください…
助けてください…
助けてください…

周囲の人々に対してではなく、巨きな存在に向かって、サクはそう訴え続けた。

世界の中心で愛を叫ぶ 第9話

2004年8月27日放映
第9話「最期の選択」

2004年。
写真を撮るため写真館を訪れたサク(緒形直人)たち。
そこで明希(桜井幸子)は、壁にかかっていた17年前の結婚写真を見つける。
そこには幸せそうなサクとアキが写っていた。

幸せな思い出にはならず、なぜ17年も引きずっているのか疑問に思った明希は、二人の別れについて尋ねることに…。

僕は話し始めた。
アキと僕の最期の日々について。
幸せな日々の終焉。
暖かな世界の崩壊。
むせ返るような死の匂い。
僕たちの、僕の、最期の選択…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
婚姻届を片手にアキにプロポーズしたサク(山田孝之)。
早速用紙に記入するが、男は18歳にならなければ結婚できないと、アキ(綾瀬はるか)に指摘される。
それでもサクは適当にごまかして申請しようとするが…。

アキの主治医は、抗がん剤がうまく効いていないと両親に説明。より強い薬に切り替える必要があった。
それが効かない時は覚悟して欲しいと両親に告げる…。


サクは婚姻届の保証人の記入を、担任の谷田部(松下由樹)に頼むが、私文書偽造と言われてしまい、正式な婚姻は諦めることに。
それでも二人の結婚写真だけでも撮りたいと、サクはアキに提案。
病状が悪化しつつあるアキだが、それでもサクは前向きだった。

なんか、サクちゃん変わったね。
もうさ、先のこと考えるのやめたんだ。
どうしても、俺もアキもよくないことばかり考える。
でも結局、人生って毎日の積み重ねだしさ。
だったら今二人にできることを、思いっきりやろうって思ってさ。


一方、娘がもう長くはないことを覚悟した真(三浦友和)は、今までのアキへの厳しい態度を改める。

亜紀があのくらいの頃、ひらひらのワンピースみたいなやつ、買ってくれってダダこねたことがあったろ。
こんなのどうするんだって言って、その代わりに「ぐりとぐら」買ってやったんだよな。
間違ってなかったと思うけど。
亜紀ちゃんの夢は、絵本の編集者になることなんだから。
両方買ってやれば良かった。
もっと甘やかしてやれば良かった…。

そして、サクの父・潤一郎に、形だけの結婚写真を撮影して欲しいと頼むことに。

ものすごく身勝手なお願いだということは、わかっています。
うちの娘は、もう長くはないかもしれません。
もしも、私が朔太郎君の親だったら、そんな写真は撮るなと言います。
残された時に、つらくなる事の方が多い気がします。
そうですかね。
きっと、こんな風に幸せになりたいって、思うんじゃないですかね。
人間は、欲の深い生き物ですから。

潤一郎はそう答え、結婚写真の撮影を快諾。

結婚写真用のウェディングドレスは、アキの母が貸してくれることに。
結婚式が現実のものとなり、喜ぶサクとアキはビニール越しにキスを…。


結婚式前夜。
アキは病室に真を呼び、メッセージを録音したウォークマンを手渡す。
聞いてみると、アキの声が…。

お父さん。明日私、結婚写真撮るよ。
私のウェディングドレスとか、興味ないかもしれないけど、
私、頑張ってしゃんとするから。
髪の毛にも、踏ん張るように指令出したぞよ。
今の私には、もうこんなことしか頑張れないけど、お父さんに見て欲しい。

娘の儚い幸せに真は涙を流す…。


結婚式当日。
写真館で皆を待っていたサクは、椅子でうたたねをしていた。

僕は夢を見ていた。
夢の中では、アキはピンピンしていて。
代わりに、僕が病気になっていた。
だけど夢を見ながら、頭の隅でこれは夢だと分かっていて。
だけど…だから、目覚めたくない夢で。
僕は、いつまでもこのまま…

「サクちゃん」という声がして起きると、そこには純白のウェディングドレス姿のアキが…。
サクは幸せのあまり涙が溢れる。

両家の両親や、大木・智世・ボウズらも写真館に集まった。

いよいよ、二人の結婚写真が撮影された。
次に、家族や友人を含めた集合写真が撮られた。皆、笑顔だった。

(モノローグ)
みんながいて、アキがいて、僕は幸せで…。
まるで、夢の中のように幸せで。

写真館の表に出たアキは、青空を見上げていた。
病室からは見れない、久しぶりの青空。それがアキの心を潤す…。


結婚式以来、アキのために空の写真を撮り始めたサク。
現像した写真を届けに行くと、アキの容態は悪化し、また面会謝絶になっていた。
綾子は代わりに録音したテープとウォークマンを手渡す。

サクちゃん、いつも空の写真、ありがとう。
今度の薬はキツいけど、これだけキツいんだから、効いてるはず。
ここで頑張れば、絶対、悪い細胞をやっつけられる。
だから心配しないでね、サクちゃん。

(モノローグ)
それからの僕は、テープでしかアキの声を聞くことができなくなった。

ある日のアキのテープの声。

サクちゃん、いつも空の写真、ありがとう。
毎日、朝も、昼も、夜も。
ちゃんと学校は行ってる?
私は最近、やっとアボリジニの本を読み終えました。
アボリジニの世界では、この世にあるすべてのものに、理由が存在するの。
災害や、争いや、死。
私たちの世界では、マイナスと考えられることにも。
私の病気にも理由があるはずよ。
それを悲しいとか、苦しいとか、寂しいとか思うのは、きっと、理解が足りないせいなんだよね。
そうだよね、サクちゃん…。

サクちゃん…。
生きてるって、どういうことかな。
死ぬって、どういうことかな。
たまに、生きてるのか死んでるのか、わからなくなる。
サクちゃん。サクちゃん…。
私の声、聞こえてるよね……。

明らかにアキの容態は悪化していた。
心配したサクは、面会謝絶もかまわずアキの病室へ。

綾子の了解を得て久しぶりに病室に通されると、そこには副作用でスキンへッドになってしまったアキが、悲しそうな笑顔を浮かべていた。

面倒くさいから、剃っちゃった…。
びっくりした?
すごい…すごいびっくりした。
なんで、泣くの?
アキが…泣かないからだよ。
サクちゃん、キスでも…キスでもしませんか?

二人は泣きながら、ビニール越しにキスを…。
そしてアキからテープが手渡される。


病院を出たサクと真の会話。

アキは、もうダメなんですか。
体力の限界でね。
明日から当分、投与は見合わせるそうだ。
そのあとは…。
特効薬ができるかもしれないし。
そうですね…。

真はすでに、覚悟を決めた様子だった…。

お見舞いの帰り道。
サクが自転車に乗りながらテープを聞いている。
それはアキの最後の願いだった。

サクちゃん、昨日、夢を見たよ。
電話が鳴っていて、そっちの方に、歩いていくと…
真っ青な、空があるの。
あれはきっと、ウルルの空だよ。
サクちゃん…空が見たい。
一度しかない、最後なら…。
私…世界で一番、青い空が見たい。

絶望感に襲われたサクは、自転車から転げ落ち、アスファルトに横たわる。

何を希望と言うのだろう。
何を絶望と呼ぶのだろう。
何を生きると言うのだろう。
何を死ぬと言うのだろう。
何を正気と、何を狂気と言うのか。
もう何も、僕には何もわからなくなった。

だけどアキが望むなら、僕は空を見せてやろう。
アキを眠らせてやろう。
世界で一番、青い空を見せて…

2004年。

世界で一番、幸せに眠らせてやろう。
そう思ったんだ…。

そう明希に語り終えたサク。

俺は、アキが死ぬと知っていて、連れ出したんだ。
もしあのまま病院にいたら、アキはもう1年は、生き延びたかもしれない。
4年、5年生き延びれば、骨髄移植を受けられたかもしれない。
そんな未来も、あったかもしれない…。
…もう、聞かないね。
だけど、松本君が話したくなったら、私いくらでも聞くからね。

(モノローグ)
僕の心が軽くなった分は、きっとこの小さな肩に乗っている。
僕はこんな優しさを知らなかった。
失いたくないと、大切にしなければいけないと思った…。


明希と一樹は先に東京に帰ることになった。
サクはフェリー乗り場まで見送る。
サクも早く東京に戻ってきて欲しいと、一樹は寂しそうに言う。

二人と別れ、家へと帰るサク。ある覚悟を決めていた。

僕はアキを、撒かなければいけないと思った。
それは忘れるためではなく…

その時、「サク! やっぱり一緒に…」という声と共に、一樹が道路を横切って走ってくる。
そこに、一台のバイクが…。

一樹を助けようとサクと明希は道路に飛び出すが、
その瞬間、アキの骨が入った小瓶が落ち、割れて骨が飛び出してしまう…。

世界の中心で愛を叫ぶ 第8話

2004年8月20日放映
第8話「プロポーズ」

2004年。
サクに会いに一人で故郷までやって来た一樹。
一樹を追って駆けつけた明希(桜井幸子)に、サク(緒形直人)はある告白をする。

実は、死のうとしてさ。
でも全然ダメで、溺れただけ。
馬鹿すぎ。
俺もそう思う。
だけどさ、俺は本当は生きたいんだなって。
生きたいんだなって、やっとわかったよ。
ねえ、もし亜紀さんの存在がなかったら、松本君は一樹を産めって言った?
そういう形で、亜紀さんは、松本君の中で生きてるんじゃないのかな。
忘れるとか、忘れないとかじゃなくて。
もう、ずーっといる…。

夏にしては、穏やかな朝だった。
走り出すこともなく、けれど、留まることもなく。
時はゆるやかに流れていくのだろうと
ふと、そんなことを思った…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
サク(山田孝之)は連日お見舞いに通う日々。
今日はアキの父・真(三浦友和)も、アボリジニの本を差し入れに見舞いに来ていた。

帰りに病院のロビーで言葉を交わすサクと真。
たまたま通りかかったアキ(綾瀬はるか)が、二人の会話を聞いてしまう。

君は大学は、どうするんだ?
治療は何年かかるかわからないんだぞ。
君の人生っていうのもあるだろう。
あの…僕の祖父の恋人は、結核だったんですけど。
頑張って生き延びてたら、ある日、特効薬ができて治って。
そういうことだってあると思うし…。
そう願いたいね。

(モノローグ)
そうは言っても、僕はアキのお父さんの言葉を気にしていた。
あと何日、あと何年、あと何十年…。
何本テープが溜まるまで…。
でも、とにかく生き延びればいいのだ。その日まで。


オーストラリアへの修学旅行が1週間後に迫っていた。
旅行中にアキに何かあったら困ると、サクは参加を辞退するつもりでいた。

放課後。見舞いに訪れたサクに、オーストラリアの先住民・アボリジニにとっての世界の中心はウルルという聖地であると、アキが語る。

弔辞で読んだ詩がアボリジニのものであると真島に教えてもらって以来、アキはアボリジニの世界観に興味を持ち、何冊か本を読んでいた。

いつか二人でウルルに行ってみたいと話すアキ。そしてその時のために修学旅行で下見をして、写真を撮ってきて、とサクに言う。自分を気にせず楽しんで来て欲しいという、アキなりの心遣いだった。

サクは亜紀が心配だったが、気をつかい過ぎるのもよくないと、オーストラリアへと旅立つ。
だがその直後、亜紀の容態が悪化してしまう。


オーストラリアに到着したサクは、滞在先のホテルで急に「帰る」と言い出す。
大木らは呆れたようにそれを止めるが、「今日死ぬかもしれないんだ」とサクは本気。
そして亜紀が白血病であることを、大木・智世・中川に初めて告白する。

再びクリーンユニットに戻された亜紀。
抗がん剤の影響で、髪の毛がごっそりと抜け始めてしまう…。

担任の谷田部に「ちゃんと連絡は取ってるから」と慰められたサクは、
翌日から皆とオペラハウスなどを観光するが、アキのことがずっと気にかかっていた。
そしてアボリジニの聖地・ウルルを訪れたサク。

世界のへそは、空に近かった。
結局、写真は1枚しか撮らなかった。
いつか、アキと一緒に来るのだから。
アキがその目で見ればいいと、
僕は自分に言い聞かせていた。


帰国したサクは病院へと直行する。
だがアキは再び面会謝絶の状態で、会うことができない。
代わりにアキの母・綾子(手塚理美)から録音したテープを手渡されたサク。
聞いてみるとアキの声が…。

サクちゃん。
私、最近サクちゃんといると、すごく疲れるんだ。
病人扱いされるのも、治るとか信じられるのも、うっとうしいし。
だから、もう来ないでください。
さようなら、サクちゃん。

意外にもそれは、一方的に別れを告げる内容だった…。

動揺したサクは、夜中に再び病院を訪れるが、アキはすでに眠っていた。
付き添いをしていた綾子は、サクに病状を説明する。

アキ今ね、毎日お風呂に入ることもできなければ、髪を洗うこともできないの。
24時間、点滴を打ち続けて、抗がん剤で髪の毛は抜けてきてるし。
食べ物だってよく吐いてしまうし。
そんな生活がいつまで続くかわからない。
それが亜紀の現実なのよ。
見なかったことにしてあげて。
…何かあった?
テープにもう、来るなと入ってて…。
すみません、取り乱して…。
それで…それから?
俺といると疲れるとか…。
うん。
鬱陶しいとか…。
うん。

(モノローグ)
アキのお母さんの「うん」が、アキにとても似ていて。
僕はもう駄目だった。
僕はもう、何がなんだかわからなくなっていた。
何に泣いているのかわからなかった。
ただ現実の前で、僕のやっていることは、あまりにも浅はかで。

アキに見せようとしたウルルの空の写真。

生まれてからこんなに、恥ずかしいと思ったことはなかった。
飛べない鳥に空を見せ、何を希望と言うのだろう。

自分の無力さを痛感したサクは、アキのためにできることを真剣に考え始める。


翌日の病室。綾子がアキの髪を洗っている。

お母さん、私ね、サクにもう来ないでって言ったんだ。
サクのためを思ったら、そうするべきだよね。
手間ばっかりかかるけど、お母さんは付き合ってね。

サクはこれからどんどん色んな世界に行って、ちゃんと出会いもあって。
その時、私の方がいいよって言えるもの、何ひとつないと思うんだ。
髪の毛なくて、一人で髪も洗えなくて、お金ばかりかかって、性格もひがみっぽくて。
きっと、子どもとかも無理っぽいよね。
そんな女、選ぶ理由、何もないよね…。
生きてたら、それって遠くないよね。
でも、それくらいは生きてそうな気がするよね。
お母さんはいてね。
お母さんだから…いてね…。
ずっといてね……。

アキはサクにもう何もしてあげられないと、自分から身を引いたのだ…。


授業に出ず図書室にこもっていたサクを、谷田部が見つける。

先生、俺、何かアキにできることって…。
わからないな。
廣瀬が松本に求めてるものなんて、あなたたちにしか。

一方、アキが白血病であることを知った大木・智世・中川は、そろって神社でお百度参りをし、アキの回復を祈っていた。

放課後。サクが埠頭でたたずんでいると、大木が声をかける。

なあ、俺だって、お前だって、明日死ぬかもしれないって思わない?
みんな同じだよ。
明日死ぬとしたら、おまえさんは何がしたい?

「私1回も好きって言われてない」というアキの言葉が頭をよぎる。


サクはある決意を固め、アキの病室へ。
アキは「帰って」と突き放すが、サクはテープを聞いて欲しいと手渡す。
テープにはサクの声が…。

こんばんは、松本朔太郎です。
今日は俺の嫌いなものについて話します。
第5位。図書室でキスされるような、男にガードがゆるい廣瀬アキ。
第4位。俺の前で無理をして、俺を特別扱いしない廣瀬アキ。
第3位。夜の海で死のうとする廣瀬アキ。
第2位。テープ1本で別れようとする、ふざけた廣瀬アキ。
第1位。後ろに乗ると言ったくせに、約束を破る廣瀬アキ。
以上…のみ。
あとは好き。全部好き…。

テープを聞き終えたアキが、近くにいたサクに泣きながら声をかける。

サクちゃん…。
私、もうサクちゃんにあげられるもの、何もないよ。
私といても、いいことなんてないよ。
もう何もないけど、ほんとにそれでもいいのかな…。

サクは婚姻届けを取り出してアキに手渡す。

じゃあ、結婚して。
ここに名前書いて…。
俺を、幸せにして…。

アキはクリーンユニットから出てきて、サクとキスを…。

僕たちは失い続けた。
分かち合える未来も、描ける夢も、当たり前だと思っていた幸せも。
もう、何ひとつ残されていなかった。
たったひとつを除いては。
廣瀬アキが好きです。
とても、とても…

2004年。

好きでした。

写真館を訪れたサク・明希・一樹。
サクは二人の写真を撮ろうとするが、やっぱり自分も入っていいかなと言い、自分も写真に納まる。
それは家族写真のようでもあった。

あの頃のような、張り裂けそうな想いじゃない。
だけどあの頃のように、僕は二人を幸せにしたいと、
幸せにしてもらいたいと、そう思ったんだ。
そう思ったんだよ、アキ…。
明日には失う未来とは、何ひとつ気づかずに…。

世界の中心で愛を叫ぶ 第7話

2004年8月13日放映
第7話「明けない夜」

2004年。
息子・一樹の誕生日を、二人で祝おうとした明希(桜井幸子)。
だがサクがいないと6歳になれないと、一樹はダダをこねる。
一樹はサクを父親として慕っていたのだ。

一方、アキのいない世界に生きる意味を見出せないサク(緒形直人)は、入水自殺しようとするが、それに失敗。

生きていると、思い知らされただけだった。
最低だった。
僕は17年間で、一体、何を得たのだろうか――

「何かを失うことは、何かを得ること」という、17年前にアキと交わした言葉が蘇る。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
アキの父・真(三浦友和)から、まだ娘に白血病という事実を知らせていないと聞いたサク(山田孝之)。
アキに希望を持たせるための仕方ない嘘だが、サクは後ろめたさを感じていた。

アキ(綾瀬はるか)は、病院の庭で絵を描いていた青年患者・真島と知り合う。
二人が仲良く会話しているところに見舞いに来たサクは、つい嫉妬してしまう。

真島が自分と同じ点滴液を使っていたことから、同じ病気ではないかとアキが聞くと、「僕は白血病だ」と真島。
アキは自分も白血病ではないかと疑い始める。

サクたちの学年はオーストラリアへの修学旅行が間近に迫っていた。
早く退院して皆と一緒に参加したいアキ。
パスポート写真を撮りに行こうと制服に着替えるが、退院許可が下りるはずもなかった。

サクはお見舞の帰り、アキの母・綾子(手塚理美)から、白血病も6割は治るが4割は厳しいという話を聞かされる。

一人になると考えてしまう。
6割、4割という数字はとても微妙で。
アキは6割なのか、4割なのか。
ボーっとしていると言われる僕でさえ、こうなんだ。
もし、アキがこの事実を知ったら…。


アキは真島の病室を訪れ、庭で描いていた絵に合う詩をプレゼントする。
もしもおまえが
枯れ葉ってなんの役に立つの?ときいたなら
わたしは答えるだろう
枯れ葉は病んだ土を肥やすんだと
おまえはきく
冬はなぜ必要なの?
するとわたしは答えるだろう
新しい葉を生み出すためさと
おまえはきく
葉っぱはなんであんなに緑なの?と
そこでわたしは答える
なぜって、やつらは命の力にあふれてるからだ
おまえがまたきく
夏が終わらなきゃならないわけは?と
わたしは答える
葉っぱどもがみな死んでいけるようにさ

いつも笑みを絶やさない真島に、どうしていつも笑顔でいられるのかを聞くと、
「何かを失うことは、何かを得ることだと思わない?」と真島。

白血病によって色々なものを失った一方で、そうなることで初めて知ったことや、得られたものもあった…。
そう考える真島はどこまでも前向きだった。

自分の病気について調べたいと思っていたアキは、ベッドのそばにあった医学辞典を借りる。
すると、「再生不良性貧血」の項目にバツ印がしてあった。

自分も初め、再生不良性貧血だと医師に言われたが、実は白血病だったと真島。
アキは自分もやはり白血病ではないかと不安に襲われ、眠れない夜を過ごす。

翌日。
医師から白血病だと告げられたと、アキは見舞いに来たサクに言う。
動揺して嘘の病名をついたことの弁明をするサク。
だが、それはアキのひっかけだった。

病名をバラしてしまったサクは落ち込む。
真に謝罪に行くと、「本当は俺がやるべきことだったんだ」と諦め顔。

夜の病室。
楽しみにしていた修学旅行に参加できないことが明確になってしまったアキ。
なんで私が…と、やるせない気持ちで問い続ける。


翌朝。
一時的に外泊許可が出たアキは、元気に登校する。数ヶ月ぶりの学校だった。
サクはもちろん、クラスメートも久しぶりのアキの姿に歓声を上げる。
ウォークマンの交換日記も久しぶりだった。

おはようございます! 廣瀬アキです。
あ、考えたら、なんか「おはよう」って久しぶり。
とにかく今日1日は、病気のことは忘れようと思ってます。
まずは、コロッケパンが食べたいぞよ。

束の間だが、かつての幸せな日常が戻ってきた。
サクは嬉しさのあまり涙ぐむ。

クラスメートの前で無理して明るく振舞っていたアキ。
それを心配したサクは、午後からサボらない?と提案。

二人は防波堤へ。告白した頃の思い出が蘇る。

その後、アキはサクの家を訪れる。
サクの母・富子はアキを歓迎。料理を教えたりする。

今晩はサクの家で食事することになったアキ。
重病だと知らない陽気な富子は「病気もそのうち治るよ」と明るく元気づける。

そんな和やかな空気を打ち消すように、「私、白血病なんです」とアキは告白。
それを聞いて感情的になった富子は、「なんで仏さんそんな意地悪するのかねえ」と、誰に向かってでもなく怒るのだった。


夜の海辺にたたずむ二人。
気をつかわずに自分を受け止めてくれたことが嬉しかったアキ。

サクのお母さんって、すごいね。
あんな人、私初めて見た。
感情丸出しなんだよ、動物だよ。
ううん、すごい人だよ。
聞くと重いじゃない、私の病気。
気のつかい合いで泥沼になっちゃうからさ。
そのまま受け止めてくれた…なんかすごい嬉しかった。
飾らないお母さんと、のん気なお父さんと。
だからサクちゃんが生まれるんだね。
どっちにも似てないと思ってたけど。
そっくりだよ。

サクちゃん。何かを失うことは、何かを得ることだって、わかる?
きっと前の私だったら、今日のこと、ここまで喜べなかったと思ってさ。
今度はもうちょっと元気になって、サクちゃんの家で朝ご飯も食べてみたいな。
”おはよう”って言うの。
それが今の夢かな。

(モノローグ)
きっと前の僕だったら単純に喜べたことが、悲しくなる。
世界を飛び回りたいと言っていたアキが、家に来ることが夢だと語る。
たぶん現実を受け入れていくと、こういうことなのだ。
だけどそれすら、心の中で声がする。
そんな未来はあるのだろうか。

大丈夫だよ、サクちゃん。
夜は必ず明けるんだよ。

その帰り。サクはアキを自転車に乗せて送っていく。

ペダルが少し軽かった。
きっとチェーンを直したせいだと、僕は自分に言い聞かせていた。


翌朝、医師から治療の説明を受けるアキ。
抗がん剤によるつらい治療が始まろうとしていた。

アキが真島の病室を訪ねると、ベッドには誰もおらず、真島の母が荷物整理をしていた。
真島は亡くなってしまったのだ…。
前向きになりかけていたアキだが、その無情な事実に打ちのめされる。

遺品として真島のスケッチブックを母親からもらったアキ。
その中には以前、アキが真島に渡した詩が挟まっており、「あきちゃんへ。これはアボリジニの歌かもね」と付記されていた。


放課後、サクがお見舞いに訪れると、アキの病室は空だった。
真らと手分けして探すが、なかなか見つからない。

昨日会話していた海辺に行くと、アキが海へと入ろうとしていた。
気づいたサクは駆け寄って連れ戻そうとするが、それでもアキは沖の方へと歩いていく…。

何考えてんだよ!
今死んだって同じじゃない!
どうせ死ぬんだったら、なんで辛い治療受けなきゃいけないの。
みんな卒業して、社会に出て、結婚して、そういうの横目で見ながら暮らすんだよ。
うらやましがって、ひがんで、可哀想ねって言われて。
いいことなんか何もないのに、惨めにいいこと探して。
私そうやって暮らすんだよ。一生だよ。
なんで私だけそんな目に遭わなきゃいけないの!
なんで…私が何したって言うの……。
治るかもしれないだろ。
気休め言わないでよ!
何で悪いことばかり考えるんだよ。
サクちゃんだって思ってるくせに。
私が死ぬって思ってるくせに!
…そうだ、思ってるよ。
思っちゃうよ…。
だけど……俺の知ってる廣瀬アキは、鼻血出ても保健室行かないんだよ。
雨の日でも、一人で弔辞読むんだよ。
白血病でも自己ベスト更新するんだよ。
誰よりも負けず嫌いで、上昇志向の塊みたいな父親と、強がりで優しい母親から生まれて、恐竜みたいにたくましく育てって言われて。
だから、俺は廣瀬アキを信じる。
だから…絶対に裏切るなよ!

サクの励ましに、アキは涙を流しながらうなずく…。

言い聞かせていた。
アキに言いながら、僕は自分に言い聞かせていた。
だけど、僕はまだ知らなかった。
信じることは、闘いだということを。

2004年。

僕はまだ知らなかった。
明けない夜はないけれど、目覚めなければ朝は来ないということを。
目覚めていても、明けない夜もあることを。

一樹は一人でフェリーに乗って、サクに会いに故郷までやってきた。
迷子として警官に保護されていたところに、サクが居合わせる。

サク、もう写真撮ってくれないの?
サクがいないと、うちの写真、撮れないんだ。
僕とママは、サクがいないと、困るんだ。
サク、嫌いになった?
僕のこと、嫌いになった?
好きだよ、一樹…。
大好きだよ……。

そう言って一樹を抱きしめるサク。

何かを失うことは、何かを得ることだと、アキはそう言ったんだ。
アキはそう言ってくれたんだ…。

世界の中心で愛を叫ぶ 第6話

2004年8月6日放映
第6話「生への旅路」

2004年。
17年ぶりに夢島に渡り、タイムポストに残されたテープを見つけたサク(緒形直人)。
アキを忘れようとして故郷に来たサクだが、その考えを改める。

アキの声はボロボロだった。
僕が捨てようとした声だった。
くだらないと言われようと、自分以外に誰が、アキと一緒に時を止めてやるんだろう。
アキはこんなくだらない男に巡り合う時間しか、許されなかったのだから。
未来は静かに暮れてゆく…。

一方、東京へと戻った明希(桜井幸子)。
幼稚園に通う息子の一樹が、明希とサクに祝われる誕生日パーティーの様子を絵に描いた。サクがパパになって欲しいと願う一樹。
だがサクの心の中には亜紀がいて、自分が入り込む余地はないと明希は感じていた。

故郷で一人、アキの残したテープを繰り返し聞くサク。

あれから何日が経ったんだろう。
Play、Reverse、Play、Reverse…
アキの声に満ちた、暖かな世界。
俺、なんで生きてんのかな、アキ――

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
夢島で倒れたアキ(綾瀬はるか)は、救急車で病院に運び込まれる。
救急車と共に駆けつけたアキの父・真(三浦友和)は、やるせない気持ちから、娘を連れ出したサク(山田孝之)を殴りつける。

アキは入院し、検査の結果、急性白血病であることが明らかに。
難病に侵されてしまったアキ…。だがアキはまだそのことを知らない。

入院先の病院も知らされないまま、途方に暮れるサク。
病院名を聞こうとアキの家を訪れるが、真に一蹴され相手にしてもらえない。
真たちもまた、娘に突然降りかかった不幸に平常心を失っていた。

入院先で孤独に過ごすアキ。
テープにメッセージを録音して、サクに届けてもらうよう母に託すが、真はそれを没収。
アキはしばらく面会謝絶の状態だった。

結局、僕はアキの家に連絡することもできず。
誰に聞いても様子は分からず。
会うすべもないままに、1ヶ月が過ぎようとしていた。

ベッドがビニールで被われ無菌状態での治療が続くアキは、サクからテープの返事が来ないことを心配。


早くも夏休みは終わり、新学期が始まったが、アキはまだ入院したままだった。
担任の谷田部(松下由樹)は、この前アキのお見舞いに行ってきたと生徒たちに報告。
だが入院先は両親の意向で教えられないという。

会えない日々が続き、ますます塞ぎこむサク。
心配した智世は、稲代総合病院でアキの母を見たという情報をサクに伝える。

放課後、病院へと自転車を走らせるサク。
ロビーでアキの両親と居合わせる。

アキちゃんに会わせてください。
ごめんね、今、まだ会えないんだ。
顔見るだけでも…
ごめんね。
もう1ヶ月ですよ。
そんなに悪いんですか。
俺何でもしますから、できること何でもしますから。
できることなんて簡単に言わないで!
…白血病なんだ。
君に何ができるんだ?
分かったら、帰ってくれないか。

白血病という事実に打ちのめされるサク。
前にラジオに投稿した、ジュリエット役の彼女が白血病になったというハガキの内容が、現実になってしまった。
サクは祈りを込めてもう一度ハガキを書く。

以前、そちらでハガキを読んでもらった者ですが、
彼女は実は、白血病ではありませんでした。僕の勘違いで。
彼女は元気になって戻ってきて、今ではジュリエット役の稽古をしています。
友達と楽しそうに話をしたり、部活動で一生懸命走っている姿を見ると、今まで病気してたのが嘘みたいで。
このままでは、誰よりも長生きしそうで…。


自分には何もできないと打ちひしがれるサクは、学校を数日休んだ。
そんなサクを神社で見つけた谷田部は、アキの前でもグズグズ泣き続けるの?と叱咤する。

何よりもアキを元気づけたい…そう気づいたサクは、病室で「ロミオとジュリエット」を演じてアキを励ます計画を立てる。大木たちもそれに協力。

それは医者でもなく、親でもない僕の、
僕にできるたったひとつの、アキのためにできることで。

演出担当のサクは台本を作り直す。
それは「どすこいロミオとジュリエット」というもの。
ロミオとジュリエットは大木と中川が演じて、とにかく楽しい演劇を目指す。

演劇の練習と準備に明け暮れるサクに、吉報が届く。
アキの面会謝絶が解けたのだ。
すぐに病院へと向かうと、入り口のベンチに真がいた。

あの…ひとつだけ見つけたんです、アキさんのためにできること。
会わせてください。お願いします。
勝手に行きなさい。
認めて欲しいんです、アキのお父さんだから。
いい奴なんだろうな、君は。
なぜ亜紀は、あんな目に合わなければいけない?
俺のせいか、綾子のせいか。
君のせいじゃないな。
だからこそ、君を憎むことでしか、俺は立ってられないんだ…。

そう言い残して立ち去る真。
そばで聞いていた綾子は「亜紀に会ってあげて」と言うが、真に認められ、ちゃんと会える日が来るまで出直すことしたサク。


後日。
大木・中川・智世はアキと再会し、病室で劇を演じるが、サクは真に遠慮して病院の中には入らなかった。

3人の演劇にアキは久しぶりの笑顔を見せる。
自分には見せることのない娘の笑顔を、久しぶりに見た真は複雑な心境。

さらに病院にサクの父・潤一郎が写真を届けに来る。
それは夢島での写真で、そこにもアキの幸せそうな笑顔が溢れていた。

娘にとって大切なのはサクや友人たち…そう気づいた真は、
渡されないままになっていたアキのテープをサクに手渡し、アキの病室番号を告げる。

ようやく真に認められたサクは、アキの病室へと走る。
1ヶ月ぶりに再開した二人。抱き合う二人は自然に涙が溢れる…。

泣きそうになった。
だけど、泣いてはいけないと思った。
僕が泣くと、きっとアキが思い切り泣けなくなるから。

もう一回呼んで、サクちゃんって…
サクちゃん
もう1回…
サク…
もう1回…
サク…サクちゃん

この声のためなら、何でもしようと思った――

何でテープ返してくれなかったの?
ごめん。
ずっと前のテープ聞いてたんだよ。
学校の行事の方が大事なの。
浮気とかしてない?

もしもアキが笑えるなら、僕は一生笑えなくていい。
もしもアキが泣きたいなら、僕は一生我慢する。
もしも、アキの代わりに死ねと言われたら、喜んで死んでやろうと。
あの日僕は、本気でそう思っていた。

2004年。

神社に立ち寄ったサク。かつて、アキの回復をここで願ったのだろう。
だが今、アキのいない世界に願いごとはないと気づく。

何ひとつ願うことがなかった。
アキと一緒に灰になったのは、僕の心だった。
そんな人間は、生きているのか死んでいるのか、答えは分かっていた。
17年前から、僕は怖くて逃げ続けてきたんだ。
たったひとつの答えから…。

アキのいない世界では生きられない。
そう自覚したサクは夜の海へと入水し、命を絶とうとする…。

世界の中心で愛を叫ぶ 第5話

2004年7月30日放映
第5話「忍びよる影」

2004年。
サクの父・潤一郎から亜紀のことをそれとなく聞いた明希(桜井幸子)は、何か力になれないかと、サク(緒形直人)に亜紀のことを尋ねてみる。
サクは一瞬動揺するものの、初めて亜紀のことを誰かに話す気になる。

小さな小林が少し大きく見えたその晩、
僕は押入れの奥にしまいこんだ箱を、取り出すことができた。
アキがいなくなってから、ずっとこの箱を開けるのが怖かった。
あの頃に戻ってしまう気がして。
だけど17年ぶりの再会は、想像していたより穏やかで。
僕は生まれて初めて、誰かにアキのことを話したいと思った。

一番幸せだった頃の話を聞きたいという明希。

手を引かれるように僕は話し始めた。
大好きだった人のことを。
17年も前のことを振り切れない、カッコ悪い自分のことを。
この人に知って欲しいと思ったから。
もう一度、手をつなぎたいと思うから、生きることと…。

サクはアキと無人島に渡った、ある夏の日の出来事を話し始める…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
最近、鼻血が出たり貧血で倒れるなど体調不良のアキ(綾瀬はるか)は、病院へ。
だが一度の検査では病状がよくわからず、念のため血液検査が必要だと言われる。
謎の微熱が続くアキは、自宅での安静が必要だった。

一方、彼女と暮らすため高校を中退する覚悟で東京へと向かった大木だったが、あっさりと帰ってくる。
彼女にはすでに新しい男がいたらしく、大木も苦笑い。
アキと智世の陸上の県予選をフイにした代償として、大木は夢島という無人島に皆を招待する計画を立てる。

一学期の終業式を病欠したアキ。
放課後、サク(山田孝之)は見舞いに訪れる。
初めてアキの部屋を訪れて緊張ぎみのサクとは対照的に、アキは夢島でのキャンプがとにかく楽しみ。
そんなアキにつられるように、サクもキャンプの準備に張り切る。

サク、アキ、大木、中川、智世の5人で夢島に渡る予定だったが、智世は行かないと言い出す。
前回、大木にフラれたショックから、まだ心の整理がついていないのだ。
また、中川も実家の寺の都合で急に行けなくなってしまう。

残るはサク、アキ、大木の3人。
だがアキも微熱が下がらず、病状を心配した母が外泊を強く反対。行けなくなったとサクに電話で告げる。
周到にキャンプの準備をしてきたサクは内心がっかり。

翌朝。
意外にもアキから電話がかかってきた。
どうしても行きたかったアキが、親に黙って抜け出してきたのだ。
サクはアキ・大木と合流して、大木のボートで夢島へと渡る。

夢島到着後、二人に気をきかせた大木は、俺は先に帰るとサクに告げる。
無人島で二人きりになる今夜が、アキと結ばれる絶好のチャンスだと言う大木。

そんなことを知らないアキは、水着姿になって海へ。
それにサクも続き、二人は幸せなひと時を過ごす。
泳ぎ疲れ、浜辺でうとうとして起きてみると、すでに夕方に。
大木は予定通り、一人で先に帰っていた。

夕食はサクが作った。夜の海辺で焚き火を囲み、将来について語り合うサクとアキ。
アキは絵本作りをしたいと言い、サクは写真館を継ぎたいと言う。

夢島にはタイムカプセルのような箱があり、サクとアキは未来の相手に向けてメッセージを残すことに。
それぞれが一人になり、テープに録音する。

未来の廣瀬アキさんへ。
廣瀬って入れたけど、廣瀬なのかな…
できれば、松本になっていて…欲しいです。
あ、でもアキは一人っ子だし、俺は妹いるから、俺が廣瀬になるのか。
とにかく僕は、毎日をずっと今日のように…
アキとのんびりと過ごしていければ…


夜の廃宿。
二人だけの一夜を前にしてサクは緊張ぎみ。だが大木が気をきかせて枕の下に忍ばせておいた避妊具を、アキに見つけられてしまう。
大木との計画がバレたサク。アキに軽く責められる。

ねえ、あの世って信じる?
信じたいとは思うけど。アキは?
信じられないな。
それってやっぱり、残された人たちが創った世界のような気がする。
存在して欲しいと、願う世界っていうか。
アキは神頼みとか、しなさそうだからね。
でも神様はいないと困るよ。
ラッキーとアンラッキーは、コントロールしないと。
すごーく幸せだった人は、すごーく不幸になったりとかするじゃない。
どんな人生も、結局プラスマイナスゼロになるようになってる気がしない?
それを調節するのが神様ってこと?
そう。
サクちゃん、私ね…
(目を閉じて祈るサク)
何してるの?
今、俺のプラス分、アキに回しといてもらったから。
俺は別に、マイナスでもいいし。
アキの方が叶えたい夢とか、色々ありそうだし。
…好きよ、サクちゃん。

深夜。寝静まった二人だったが、どこからか電話が鳴るような音がしてアキが起きる。
二人が外に出てみると、暗闇は一面、蛍の光に満ちていた。

蛍ってさ、7日間しか地上にいないんだよ。
こんなの見れるなんて、どのくらいの確率なんだろうね。
幸せだなぁ、私…。
なんでこんな…幸せなんだろう。
もう何かあるんじゃないかと思っちゃうよ…。
誰かが病気になったりとか、誰かが死んだりとか…。
もう、本当に…何かあるんじゃないかな…。
ないよ。そんなこと、絶対ないから。


2004年。

僕はなぜアキが泣いているのか、まったくわからなかった。
だけど、この時肩に止まった蛍は、いつの間にか消えていたんだ。

99%の確率でテープはないだろうと、そう思いながら、僕は夢島に渡った。
人の手の入らない無人島は、不気味なほど変わらず。
そこはまるで、死の国の入り口のようで。

17年ぶりに夢島へと渡ったサク。
タイムポストは朽ちていたが、かろうじて現存していた。そこにアキのテープを見つける。
早速テープを聞いてみると、17年前のアキの声が…。

未来の松本朔太郎へ。
サクちゃん、私ね、わかったんだ。
幸せって、すごく単純なことだね。
サクちゃんがいて、私がいることなんだよね。
きっと、そういう毎日のことで。
だから、これからもずっと、昨日のように、
サクちゃんとずっと、手を繋いでいけたらと思うよ。
私がサクちゃんの手を引っ張って、サクちゃんは子どもの手を引いて。
そんな風に、歩いていけたらと思う。

アキの声はボロボロだった。
時の流れから、たった一人置き去りにされた声だった。
誰も聞こうとしない。
どこにも届くことのない。
僕が捨てようとした声だった。
時が戻っていく。
アキをボロボロにしたのは自分だと、責め続けたあの頃へ――

1987年。

夢島で一夜を過ごした翌朝。
迎えに来た大木のボートに乗ろうとしたサクとアキだが、その瞬間、アキが気を失って倒れてしまう。
夢島にいる間も、アキの病気は進行していたのだ……。

世界の中心で愛を叫ぶ 第4話

2004年7月23日放映
第4話「最後の日」

2004年。
17年ぶりに故郷を訪れているサク(緒形直人)。
手紙をもらった高校時代の担任・谷田部(松下由樹)と17年ぶりに再会する。

高校のグラウンドで陸上部の練習を見つめるサクと谷田部。
アキも陸上部に所属していた。17年前のことを回想する二人。

あなたいつもここで見てたよね。
廣瀬はいつも走ってて。
廣瀬が最後に走った日のこと、覚えてる?

忘れるわけがなかった。
17年前、1987年7月19日。
12秒91
アキが走った、最後の日…。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。

陸上の県予選が間近に迫ったアキ(綾瀬はるか)。
同じく陸上部の智世と共に、練習に汗を流す。
サク(山田孝之)はそれを見守る日々だった。

サク、中川、大木らは、県予選に二人を応援しに行く計画を立てる。
行事ごとが嫌いな大木にしては、妙に乗り気だった。
大木に想いを寄せる智世は、大木のために頑張ろうと練習にも力が入る。

一方、アキも予選で敗退したら退部して、勉強に集中することを父と約束していた。
陸上を続けるためには勝ち残らなければならず、懸命に練習に打ち込む。

陸上部の練習の帰り。
サクとアキが一緒に帰宅していると、大木が電話ボックスから誰かに電話していた。

話を聞くと、大木は東京に彼女がいるらしく、だがここ1ヶ月ぐらい電話が繋がらないという。心配した大木は、できれば東京に行って様子を見てきたいと言う。

翌日。
大木は幼い頃の写真を焼き増しして、カセットテープの山をサクと中川にプレゼントする。

何かあったと直感したサクは、大木のバイト先に駆けつける。
すると大木は高校を中退して、東京に行って彼女と暮らす決意を固めたようだ。
世間はそんなに甘くないと中川は反発するが、何もできなくても彼女の側にいてあげたいと言う大木。

何も言えなくなってしまった。
ボウズはきっと、まだアキのことが好きで。
僕のために、必死に友達の顔をしてくれて。
役立たずでも側にいたいという介ちゃんの気持ちは、アキを見てる時の僕と同じだった。

二人の気持ちがわかるサクは、どうしていいのかわからず落ち込む。
そんなサクをアキが励ます。

この間、何でそんなに頑張るのかって、サクちゃん聞いたじゃない。
実は私、リズム感あんまりよくなくて。
だからスタートも苦手なんだけど。
幼稚園の頃にね、お遊戯上手くできなくて、仮病使ってお遊戯会休んだんだよね。
逃げ出した自分が、すごく嫌だった。
やらないで失敗しないより、やって失敗した方がいいと思う。
スケちゃんのこと?
大木くんも智世も。

翌朝。
大木にもらったテープの中から元気が出る曲をセレクトし、ウォークマンと共に下駄箱に入れたサク。
いよいよ明日は県予選だった。

一方、大木が焼き増しに出した写真の現像ができた。
サク・大木・中川・智世の4人で、幼稚園のリレーに出た時の写真だった。
リレー選手に病欠者がいて、代わりに智世が出場。
結局ビリになって智世は泣いてしまうが、そのことをキッカケに仲良くなった4人。

智世は予選に勝ち残ったら大木に告白するつもりでいた。
アキにとっても退部を賭けた大事な予選だった。


大会当日。
客席にはサクと中川。
競技前にアキが挨拶にやってくるが、大木はなかなか来ない。

大木は初めから応援に来るつもりはなく、智世に嫌われるためにわざと嘘をついたと気づいたサクとアキ。

それを知った智世はショックを受けるが、すでに大木は東京へと向かおうとしていた。
4人は会場を後にして駅へと向かって走る。

駅。
電車がやってきて大木が乗り込む。
そこに駆けつけた4人。
智世は走りながら別れの言葉を口にするが、無情にも電車は走り去っていく。
泣き崩れる智世。

大会はすでに始まっていた。
アキの出番までわずかの時間しかなかったが、サクはアキを後ろに乗せて、競技場へと向かって自転車を走らせる。

トラックに到着した二人。しかし、レースにはあと一歩のところで間に合わなかった。
サクが係員にアキの再レースを懸命に頼むが、断られてしまう。

走るって、結局最後は一人なんだって思ってた。
でも違ったね。

そんな二人を見て不憫に思った谷田部が、サクの自転車にストップウォッチを残す。
帰り際に、それを見つけたサクとアキ。


夕方。大会が終わって静まり返ったトラックに、サクとアキがいた。
二人だけの最後のレースが始まろうとしていた。
サクがストップウォッチ片手に笛を吹き、スタートを切るアキ。

すれ違いながら走り続ける人生の中で、
想いがひとつになる瞬間なんて、
ごくたまに、本当にごくたまにしかなくて。
だとしたら、こんな顔を見られる僕は、なんて幸せなんだろう。
こんな風に喜べる僕は、なんて幸せなんだろうと思った。
12秒91は、誰も知らない、僕たちの公式記録。

タイムは12秒91。
亜紀の自己ベストだった。

2004年。

僕が忘れると無くなってしまう。
アキの最後の記録だった…。

17年前のそのことを回想したサクと谷田部。

ずっと一人でやっていこうと思ってたんです。
毎日忙しくしてれば、人生なんてあっという間だって。
で、気づいたら17年で…。
もう?
まだ…まだなんです。
死ぬまでに、あと17年、何回あるんだろうって思って。
ありもしない現実に期待して、夢から醒めると泣いてて。
あと何万回、僕はこんな朝を迎えるんだろうって。
もう…無理だと思ったんです…。
忘れなさい、松本。
あなたたちのことは、私が覚えてるから。
安心して忘れなさい。
もう一度、誰かを乗せて走りなさい…。

泣き崩れるサクを、そう言って慰める谷田部だった…。

世界の中心で愛を叫ぶ 第3話

2004年7月16日放映
第3話「永遠の別れ」

2004年。
アキに別れを告げるため、17年ぶりに故郷を訪れたサク(緒形直人)。
だが思い出の場所であるアジサイの丘には、ピンクのアジサイが一本もなく、改めてアキの不在を実感していた。

行方不明になったサクを心配した明希(桜井幸子)が、息子の一樹と共にサクの実家を訪れる。
サクの両親は息子の帰郷と明希の訪問を歓迎。
だが17年前の話題だけは気をつかって避けていた。

父も母も昔と同じように話をしてくれた。
ただひとつ、17年前の話題だけは避けながら。
その心遣いに、自分は二人をずいぶん心配させていたのだと。

母・富子は、サクと明希の関係が気がかり。
明希にそれとなくさぐりを入れると、恋人と別れた後に妊娠が発覚した明希を、一人励ましたのがサクだったという。
一樹の入園式に行くなど、父親代わりになっていたサク。
お世話になりっぱなしと言う明希だが、富子は逆に、孤独なサクの親友として明希に感謝する。
17年前に一体何があったのか…明希はまだそれを知らない。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

1987年。
恋人の骨を盗んだ翌日、祖父・謙太郎(仲代達矢)が突然逝ってしまった。
サク(山田孝之)は葬儀に出席しても、祖父がこの世からいなくなったという実感が沸かず、涙を流すこともなかった。
そして祖父とサトさんの骨を一緒に撒くという、重い宿題が残されていた。

結局、僕は一度も泣けなかった。
あまりにも出来過ぎだったから。
お祖父ちゃんには、死んで叶えられる望みがあったから。
まだやらなきゃいけないことがあるから。
僕は、自分で自分がわからず…。

アキ(綾瀬はるか)はサクのことが心配で、自分に何かしてあげられることはないかと考える。

祖父が亡くなったことで、祖父が一人で経営してきた写真館は売却することになった。
父・潤一郎は思うところがあるようだが、何も語ろうとはしない。

サクは悲しみに陥ることなく、学校ではむしろ明るく振舞っていた。
「ロミオとジュリエット」の演出がまだ決まっていなかったが、サクが元気に立候補。
体育の時間も、妙に明るいサクだった。

放課後。サクは売却する写真館に行き、回収と片付けを。
アキもそれを手伝い、祖父の恋人・サトさんの写真を持ち帰る。

その夜。
売却の取引がサクの家で行われ、話が決まりかけていた。
だが急に潤一郎(父)が、売るのはやめて自分が継ぐと言い出す。
そして妻に相談することもなく、農協の仕事も今日辞めてきたと言う。

翌朝。
なぜ家族に相談しなかったのかをサクが聞く。
「気づいたら親孝行は何もしなかった。これしかなかったんだ」と父。

父の態度に触発され、サクも祖父への恩返しを真剣に考えるが、どこで二人の骨を撒けばいいのかわからず、余計に重圧になっていった。


学校。
アキはサトさんの写真の裏に書かれていた漢詩のようなものの意味を、担任の谷田部(松下由樹)に聞く。
漢詩を読み上げる谷田部。

夏之日
冬之夜
百歳之後
歸千其居

葛生だね。
好きな人を亡くしてしまった人の詩だよ。

夏の長き日。
冬の長き夜。
君はここに眠っている。
百歳の後、私もいずれは君の元で眠ろう。
やすらかに、その日を待ちたまえ。

放課後。
アキがサクの家を訪れる。
写真の裏の漢詩から、アキはあることに気づいていた。

どうしてサトさんしか写ってないんだろうって、ずっと思ってて。
たぶん、お祖父さんが出征の時に持って行った写真なんだよ。
サトさんはきっと、お祖父さんの写真を持ってたんだと思う。
お互い、胸に抱いて死ぬつもりで。
そこまでの覚悟だったんだから。
私、やっぱりちゃんとしないといけないと思った。

二人の骨をちゃんと撒きたいと言うアキだが、サクは骨の入った小瓶をどこかで失くしてしまったと言う。
そして「心は通じているだろうからもういい気がする」と言い、投げやりな態度を見せる。

その夜。
サクがアキの家に電話してみると、急の文化祭の打ち合わせで学校に行ったとアキの母に言われる。

外は豪雨だったが、サクは夜の学校に駆けつける。
すると学校のゴミ集積所で、アキが一人、ゴミの山から骨が入った小瓶を探していた。
学校中をずっと探していたらしく、服も汚れてしまっていた。

サクは呆然とし、謝罪。骨を失くしたというのは嘘で、実は持っていたサク。

いざとなったら、撒けなくて。
どんどん重くなってきちゃって。
亜紀に言われて、何か恥ずかしくなって…。
良かった、あって…(微笑む亜紀)


休日。
どこかの山の、もう使われていない線路を歩くサクとアキ。
小さな廃駅を見つける。
そこは、祖父が戦争へと出征した駅だった。
サトさんが見送りにきて、二人はその後、会うことはなかった…。

二人の骨を手のひらに出して、手をかざして風を待つサク。

なんでまた急にやる気になったの?
約束だから

と言った瞬間に、風が吹いて二人の骨が舞う…。
それを神妙に見つめるサクとアキ。


自転車の後ろにアキを乗せて、帰宅する二人。
自宅近くでアキを降ろし、サクは一人帰宅する。

ペダルが軽かった。
その軽さに、思い出していた。
僕の後ろには、いつも…。
あの日の約束を。
あの日のお祖父ちゃんを。

12年前。1975年7月16日。

祖父と自転車の練習をする5歳のサク。
なかなか上手くいかず、転び続けて足は傷だらけだったが、祖父の応援もあってついに成功。
これからはどこにでも連れて行ってあげるね、と幼いサクは祖父と約束。

そんなことを回想しながら自転車を走らせていると、ペダルが壊れ、転倒してしまうサク。
それを見た亜紀が駆け戻ってくる。

ペダル…ペダルって、軽いんだよ。
うん。
一人だと。
うん。
いなくなるって、そういうことだよ…。
うん…。
私、太るよ。
お祖父ちゃんと同じくらいになって、後ろに乗るよ。
何言ってんだよ…。

泣き崩れるサクを、優しく抱きしめるアキ。

世界で一番美しいものを見た。
世界で一番優しい音を聞いた。
世界っていうのは、抱きしめてくれる人のことで。
その腕の中は、暖かくて。
お祖父ちゃん、好きな人を亡くすのは、だから辛いんだよ。

2004年。

でも、どうして…どうしてこんなに辛いんだろうね…。

17年前、アキに優しく抱きしめられた日のことを回想したサクは、
抱きしめてもらっていいかな、とつい近くにいた明希に聞く。
変なこと言ってゴメンとすぐに訂正するが、明希はそんなサクをそっと抱きしめる。

僕は行く
もう一度
この音の高鳴る世界へ…

世界の中心で愛を叫ぶ 第2話

2004年7月9日放映
第2話 微妙な距離

2004年。
入院先の病院から抜け出したサク(緒形直人)は、17年ぶりに故郷を訪れる。

17年ぶりの故郷は、それなりに時を感じさせた。
黒い髪の生徒はいなくなり、ウォークマンはMDプレイヤーに変わった。
僕はアキと別れる場所を探した。
本当は、17年前にしなければいけないことだったから。
あの頃と変わらない所がいいと思った。
まだあるだろうか。アキが好きだと言った、あの場所は…。

意味深にアジサイの丘を見つめるサク…。

1987年。

サク(山田孝之)とアキ(綾瀬はるか)はウォークマンでの交換メッセージを続けていた。今朝は「図書室で一緒にコロッケパンが食べたい」というアキからのメッセージが。昼休み。サクは購買でコロッケパンを2つ買い、図書室へと向かう。だがアキは急に文化祭の打ち合わせが入り、一緒に食べることができない。

放課後。陸上部の練習をするアキ。サクがグラウンドの外で終わるのを待っていると、「今日は遅くなりそうだからいいよ」と、アキはどこか冷たい。

付き合い始めたものの、なかなか仲が進展しない二人。友人の大木からは「からかわれてるだけなんじゃねぇの」と言われ、サクは不安に駆られる。さらに、このままではロミオ役に先にキスされるぞ、と言われてしまう。

サクは急いで学校へと戻り、校門でアキが出てくるのを待つ。自転車で帰宅する二人。
帰り道、アキは近くの丘にサクを案内する。丘の頂上には一面、アジサイの花が咲いていた。

一人になりたい時よく来るんだ。アジサイって不思議な花でね、土壌の酸性度によって色が変わるんだって。青いアジサイは酸性。ピンクはアルカリ性。ちなみに、植物がよく育つのは弱酸性だって。

人間みたいだな。人って環境で性格が変わるって言うからさ。
そうだね。

ロマンチックな雰囲気になり、サクはキスしようとするが、「ヤダ」と拒まれてしまう。


その帰り。サクは祖父・謙太郎(仲代達矢)に呼び止められ、食事していくことに。
そして「ある人の骨をお墓から盗んで欲しい」と物騒な頼みごとをされる。
サクは嫌がるが、謙太郎もなかなか食い下がらない。

その夜。「できればジュリエットはやらないで欲しい」とサクはテープに吹き込むものの、男らしくないと感じたのかやはりやめる。 翌朝。サクは下駄箱にウォークマンを入れないでおくが、アキは何も言わない。

どうしたのとか聞けよ。なんだか自信がなくなってきた。アキはホントに俺のこと好きなのだろうか。

文化祭で「ロミオとジュリエット」の開催が決まっていたが、ロミオ役はまだ決まっていなかった。 立候補を求められ、誰もいないなら学級委員の安浦が演じるという。
それだけは阻止したいサクは、迷った末に立候補する。

サクか安浦か。「せっかくだからジュリエットが選べば、(サクと)できてるって噂もあるし」と女子たちは冷やかす。その冷やかしを拒絶するように、アキは「じゃあ学級委員同士ということで」と、サクではなく安浦を選ぶ。サクはアキへの不信感が強まる。


放課後、サクとアキは祖父の写真館を訪れる。アキの訪問を喜ぶ謙太郎。 アキは壁に飾られている、古ぼけているが美しい女性が写ったセピア色の写真を見つける。

あの世で一緒になろうと誓った人だ。出会った頃は戦争でね。彼女は身体が弱くて結核だったし、俺は兵隊に取られて、戦争が終わるまで二人とも生きてはいないだろうと思っていた。でもありがたいことに、二人とも無事に終戦に迎えられてね。
……
特効薬ができて、彼女は治って、親の決めたところに嫁ぐことになってしまったんだ。
笑っていいんだか、泣いていいんだかわからん話だ。会いたくて会いたくて、会おうと思った矢先に、彼女はぽっくり死んでしまった。だから、せめて骨を…。俺が死んだら、あの人の骨と俺の骨を、一緒に混ぜてまいて欲しいんだよ。そうしたらあの世で、あの人と一緒になれるかもしれないと…。

その帰り道。

翌日。今朝はアキの下駄箱にウォークマンが入っていた。気持ちを入れ替えたサクは、「ロミオとジュリエット」の演出に立候補したいと吹き込んでいた。それを聴いたアキは笑顔。 昼休み。コロッケパンを2つ買って、サクは図書室へ。だがアキはまた学級委員・安浦に話しかけられていた。

アキに想いを寄せる安浦は、松本と付き合ってるのか?と問い詰める。そして想いを押さえきれず、強引にアキにキスしてしまう。そこに居合わせたサクは、たまらず安浦に殴りかかる。 そしてサクはアキを責めてしまう。

放課後。アキの唇を他の男に奪われ、傷心のサクは堤防で一人たたずむ。そこに立ち寄った大木は、キス程度に何の意味があるんだ、と慰める。 その帰り。サクは写真館に寄り、「骨を盗みに行こう」と祖父に言う。サクと祖父は自転車に乗って墓地へ。

アキの自宅。男のせいで勉強に身が入らないのではと懸念したアキの父は、サクとの交換テープを無断で捨ててしまっていた。

夜の墓地。二人は祈りを捧げた後に、墓を掘り起こし、サトさんの骨を少量盗むことに成功。 その帰り、なんとなくアキの家に立ち寄るサク。すると、父の横暴なやり方に反発したアキが家から抜け出そうとしていた。

二人はアジサイの丘へ。すでに空が明るくなりかけていた。それぞれの想いを素直に語り合う。

今までいい子を演じてきたアキだが、思いがけないサクの言葉にアキは泣いてしまう。

初めてなの、私…。
頑張らなくていいって、そのまんまでいいって言われたの…。
嫌いにならないでね、サクちゃん。
私のこと、嫌いにならないでね…。

…キスする二人。

こんな風にひとつづつ、僕たちは近づいていくのだろう。
10年後、20年後、ひょっとしたら100年後。
ケンカをしたり、仲直りをしたり。
だけど、昨日より今日、明日より明後日…。
僕は当たり前のようにアキを好きになる。そう思っていた。
ここに毎年、アジサイが咲き続けるように。

2004年。
骨をまくため、17年ぶりにアジサイの丘にやって来たサク。

今も変わらずにアジサイが咲いていた。
だけどあの日アキと見た、ピンクのアジサイは一本もなかった。
目の覚めるような青だった。
僕の目を覚まさせる、鮮やかな青。
アキなどいなかったのだと言われてる気がして、僕はまくことができなかった…。

世界の中心で愛を叫ぶ 第1話

2004年7月2日放映
第1話 恩師からの手紙

1987年。
砂漠のオーストラリア。一人の高校生(サク・山田孝之)が岩の上でたたずんでいる。手には白い灰のようなものが入った小瓶が。かつて愛し合ったアキとの日々を回想し、泣き崩れるサク…。

17年後、2004年。サク(緒形直人)は大学病院で研究医として働いていた。

(大人サク)
朝起きると、泣いている。悲しいからではない。17年前の夢から、17年後の現実に戻ってくる時に、またぎ越さなくてはならない亀裂があり、僕は涙を流さずに、そこを越えることができないのだ。

サクは研究中に過労で倒れてしまう。サクの友人である明希(桜井幸子)が入院先まで見舞いに来て、留守中の郵便物を手渡す。その中に、高校時代の担任・谷田部(松下由樹)からの手紙があった。校舎が取り壊されることになったので、最後に見に来ないかという内容。サクは高校卒業後17年間、一度も故郷に帰っていない。

入院中のサク。ベッドでラジオを聞いていると、「私たちはラジオをきっかけに付き合い始めました。でも住む世界が違ってしまい、もう17年間会っていない…」というハガキが読まれる。そこにアキを感じたサクは、病院を抜け出してふらふらになりながらラジオステーションに駆けつけるが、もちろんそこにアキはいない。

あるはずがない。そんなことあるはずが。あるはずがないのだ。僕は彼女のいない世界に、もう17年も、いる――

1987年、高校2年生のサク。夏のある日曜日。サクは自転車に乗って葬儀場に向かう。サクの高校の教師が病気で亡くなったのだ。2年生を代表してサクのクラスメート・アキ(綾瀬はるか)が弔辞を読む。

(アキ)
この世に存在するものに、何ひとつ無駄なものはないと、教えて頂いたような気がします。言葉がありません。
私には、この気持ちを伝える言葉がありません。だから今日は、先生に詩を贈りたいと思います。

突然強い雨が降り始める。生徒たちは軒下に避難する。だがアキは雨に打たれるのもかまわず、心を込めて弔辞を読み続ける。

お前は聞く。冬はなぜ必要なの。すると私は答えるだろう。新しい葉を生み出すため。

(サク)
その時の気持ちは、言葉にならない。ただ廣瀬亜紀の声がする方に、自然に足が…。

傘を持って来ていたサクは、一人アキの方に歩み寄り、傘を差しかける…。

葬儀の帰り。アキはサクに声をかけ、二人は夕陽の落ちる堤防で会話。アキは傘のお礼にキーホルダーをプレゼントする。
帰宅後、そのキーホルダーは「MUSIC WAVE」というラジオの景品であることを妹から聞かされる。さっそくそのラジオを聞いてみるサク。 ハガキ採用者に贈られるウォークマンが欲しくて、アキはハガキを書いているという。

サクとアキのクラスの文化祭の催し物が、「ロミオとジュリエット」に決まる。女子生徒はジュリエット役にアキを推薦するが、アキはあまり乗り気ではない。

サクは友人の中川からお金を貸して欲しいと言われる。アキにひそかな想いを寄せる中川は、アキの誕生日にウォークマンをプレゼントしたいらしい。金がないと断れると、文才のあるサクに、ラジオにハガキを書いて欲しいと頼まれる。それをしぶしぶ承諾したサク。

放課後、たこ焼き屋でサクがハガキの案を練っていると、雨が降り始める。そこにアキが現れて、傘を差しかける。
二人は一緒に帰宅。「ジュリエット役、やりたくないならやめれば」とサク。気にかけてもらった嬉しさからか、アキは別れ際に、「サクって呼んでもいい?」と。

サクが練った案は完成し、ハガキを中川に手渡す。あとは自分で出しな、と。どこか寂しげなサク。 数日後のラジオ。
サクのハガキが採用され、内容が読み上げられる。

今日は僕のクラスのA・Hさんのことを書きたいと思います。彼女は学級委員で、みんながやりたがらないジュリエット役を、ニッコリ笑って引き受ける。だけど実はちょっとイタズラすることもある。そんな、とても魅力的な女の子です。
でも最近、学校を休むようになりました。実は、彼女は白血病になってしまったんです。このあいだ見舞いに行って、僕は愕然としました。彼女の髪の毛は薬の副作用ですっかり抜け落ち、かつての面影……

ラジオを聴いていたアキは、サクの仕業であると直感。翌朝学校で会った時に、「世の中にはホントに病気と闘ってる人もいるのよ」と非難する。 その夜。サクとアキの仲を知り、アキを諦めた中川は「俺は廣瀬よりもいい女と結婚する」と言い残して、ダンボールをサクに手渡す。中身は当選品のウォークマンだった。

翌朝。アキの下駄箱にウォークマンが入っていた。一緒にテープが入っており、再生してみるとサクの声が…。

松本朔太郎です。
この間はごめんなさい。
だけどわかって欲しいこともあって。
あれは俺にとって、ホントに一番せつない話だったんだ。
俺は廣瀬がいなくなるのが、何よりも一番せつない。
もし許してくれるなら、今日の放課後、あの場所に来てください。

放課後。サクが堤防で待っていると、アキが走ってやってくる。ウォークマンをサクに投げ、「聞いて」と。再生してみると、アキの声が…。

廣瀬アキです。
今日は私の好きなものについて話します。
第5位。たこ焼きパパさん。の前で、こそこそハガキを書いている松本朔太郎。
第4位。ガムのおもちゃでだまされる、人のいい松本朔太郎。
第3位。いつもいつも鍵をなくして、もぞもぞしている松本朔太郎。
第2位。ジュリエットやめたら?と言ってくれた松本朔太郎。

予期していなかった内容に驚くサク。アキは続きを直接サクに告げる。

第1位。あの日、傘を差しかけてくれた松本朔太郎。
…好きよ、サクちゃん。大好きだよ。

アキは照れ笑いを浮かべながら、サクに歩み寄っていく…

アキは今までで最高の誕生日だと言ってくれた。
僕もそんなこと言われたのは初めてで。
そしてこれが、アキの最後の誕生日になった…。
1987年の7月2日。

それから17年後、2004年の7月2日。アキを失ってから17回目の誕生日を迎えたサクは、強い喪失感に襲われていた。

だけど僕はこれから、ずっとこんな風に生きていくのだろうか。
僕は…忘れなければいけないと思った…。